2006年11月09日発行 第0419号 特別
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ■■■    日本国の研究           
 ■■■    不安との訣別/再生のカルテ
 ■■■                       編集長 猪瀬直樹
**********************************************************************

              http://www.inose.gr.jp/mailmaga/index.html

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「『ニュースの考古学』取材ノート JRA・ファミリー企業天国に迫る」

                       猪瀬直樹事務所 広野真嗣

 猪瀬直樹の週刊文春の連載コラム「ニュースの考古学」では「JRAにみる
永田町・霞が関・虎ノ門のトライアングル」(10月12日号)からすでに4回に
わたり、特殊法人・日本中央競馬会(JRA)とそのファミリー企業群が隠蔽
しようとする無駄づかいの現場に光をあてつづけている。そこには旧道路公団
と共通する、ある“闇の構造”が見えてくる。会計検査院がメスを入れ霞が関
の自浄作用を発揮しようとしたが、闇から闇へ葬り去ろうとする暴挙が……。
真実は、「ニュースの考古学」で詳報したので、お読みいただいた読者もいる
だろう。

 今回はその膨大な取材ノートから、コラムでは収まりきらなかった秘蔵メモ
の一部をここに示しておきたい。

                   *

【10月×日】 「中央競馬会分館ビル」の怪

 新聞各紙がまだ総裁選の政局報道に終始していた夏ごろ、毎日新聞社会部が
「中央競馬会 94パーセントが随意契約/ファミリー企業12社と役員51人天下
り」(7月5日付)と報じた。横並び報道が新聞の常なのに、このような傑出
した調査報道にかぎって他紙は見て見ぬ振りをする。

 JRAファミリー企業がどこにあり、なにをしているのか。企業データから
ファミリー企業の所在地を確かめていくと、奇妙な事実に突きあたった。取材
は競馬場の風景とはほど遠い、いや特殊法人の“聖地”ともいえる虎ノ門に程
近い、新橋からスタートした。

 夜になれば仕事帰りのサラリーマンの姿が行きかう界隈、新橋駅から西に数
百メートル、そこにひとつの雑居ビルがある(URLをクリックで写真参照)

 8階建ての建物1階には「JRA関東広報コーナー」が開かれている。入口 をはいるとすぐ正面に「Visual Room」という座席数55席の小さな映写室があ った。客は10人たらず、午後2時半にもなっているビジネスタイムにもかかわ らず、ネクタイを緩めた年配のサラリーマンがコックリコックリと船をこいで いる。薄暗いスクリーンに映し出されているのは、中央競馬の録画映像である。  さて、この建物の話である。登記簿によれば所有しているのは日本中央競馬 会(JRA)で、その名も「日本中央競馬会分館ビル」。だがこの広報スペー スを除けば入居者はJRAではなく、JRAの発注の世界に巣食う“ファミリ ー企業”の群れであった。 1階 ○(株)中央競馬ピーアールセンター(社長は元農水省食品流通局長・     元JRA常任理事) 2階    同上 3階 ●(株)日本スターティングシステム(社長は元JRA監事)     (社)日本軽種馬協会(理事長は河野洋平・衆議院議長)    ○競馬飼糧(株)(社長は元JRA阪神競馬場長) 4階 ○共栄商事(株)(社長は元JRA理事)    ○新和サービス(株)(社長は元JRA監査部長)     (社)中央競馬振興会(会長理事は河野洋平・衆議院議長)    ★(財)日本中央競馬会弘済会(会長は元JRA副理事長) 5階 ○日本競馬施設(株)(社長は元JRA監事) 6階 ★(財)日本軽種馬登録協会(理事長(非常勤)は元水産庁長官、     専務理事(常勤)は元農水省生産局畜産部飼料課長) 7階 ●日本馬匹輸送自動車(社長は元JRA理事)  ここに入居している7社の株式会社のうち●印の2社はいずれもほぼ100 パーセント、JRAが出資している。取引のほとんどをJRAに依存しており、 日本中央競馬会法施行規則の「子会社」と認定されている。  また○印の残り5社は出資関係が薄く「子会社」からは漏れるが、いずれも 社長は天下り、取引の大部分をJRAに依存している点では同じファミリー企 業だ(人的関係や取引関係の濃さから独立行政法人等情報公開法に定める「関 連会社」にあたる)。JRAはこのような子会社4社、関連会社8社の計12社 も抱えている。  それだけではない。  さらに★印をつけた4階の財団法人日本中央競馬会弘済会と、6階の財団法 人日本軽種馬登録協会のふたつは、前述の日本中央競馬会法施行規則上の「関 連公益法人等」である。ふとみると、3階にこれとそっくりな名前の社団法人 を見つけた。  これは「日本軽種馬協会」で、「登録」の文字がない。公認の「関連公益法 人」ではない別の組織である。財団法人のほうの仕事は、「軽種馬の登録を行 い、もって軽種馬の改良増殖及び資源の涵養並びに競馬の公正な施行に資する こと」と定款に定められ、「軽種馬の登録とは、サラブレッド、アラブ、アン グロアラブ、サラブレッド系種及びアラブ系種の5品種の馬を個体別に、その 品種、血統、特徴、繁殖成績等を明らかにして永久に保存しておくことであ る」とホームページには記されている。ようはサラブレットの資格を付与する 検査機関である。  社団法人のほうの会長理事は河野洋平・衆議院議長、全国2000近い競走馬生 産者でつくる法人で、「農林水産省、日本中央競馬会に要請し、優秀なサラブ レッド種牡馬の整備に努めるとともに本協会でも独自に輸入を図るなど、生産 者の期待に応えるべく努力を重ねています」とホームページに記している。  これらの関連公益法人も計12団体である。  株式会社、公益法人をあわせ公認されているだけでJRAには24のファミリ ー企業があるのだ(JRAは下記のように情報公開をするようにはなってはい る)。  http://www.jra.go.jp/company/johokoukai/johokoukai02_04.html

 ちなみに、JRAの登記上の本社は「中央競馬会分館ビル」の北西、日比谷 公園から南へ数百メートル、飯野ビルの南側の路地沿いに本部ビルがある。が、 なかは関連の財団法人や競馬に関する図書館があるぐらいで、理事長室も空室。 すでに01年にのちに完成するテレビ朝日と隣接することになる六本木ヒルズ・ ゲートタワーに移転した。現在、その4階から9階までを占有している。 【10月×日】 JRAへの問いかけ  JRAを取り巻くお金世界を整理してみよう。JRA収入のほとんどは馬券 の売上げである。年間約3兆円もの馬券収入のうち75パーセントは払戻金だか ら、テラ銭は25パーセント(7500億円)である。うち10パーセント、3000億円 は国庫納付金として自動的に政府の収入となる。残りの15パーセント、4500億 円が胴元のJRAの取り分である。  この4500億円の経営資金が適正に使われているのか。運営経費から余剰が出 た場合にはその半分はさらに国庫納付金となるから、運営経費を削れば会社で いう利益は増え、国の財政に貢献することができる。しかし、ファミリー企業 に高いコストで随意契約していれば、天下り企業の懐に入るばかりである。  先ほど述べたように、JRAには少なくとも株式会社で12社のファミリー企 業がある。JRAのファミリー企業との契約の94パーセントが随意契約だとし たら、霞が関の中央省庁の数字と比べてみても高い。だから、2001年末の特殊 法人等整理合理化計画では、以下のように記された。 「管理経費・競走事業費の削減など更なる事業の効率化を図る。その一環とし て、公正確保と両立させつつ、一般競争入札等の範囲を大幅に拡大するととも に、関係会社等に対する委託費等を削減する」  一般競争入札を拡大していけば、たとえば競馬場の清掃や警備業務を担うこ とができる民間企業はいくらでもあるはずだ。さらに小泉内閣は2005年末の閣 議決定「行政改革の重要方針」で、追い討ちをかけた。 「競争性のある契約のうち競馬の公正・中立性の確保上支障のない契約につい ては、そのすべての契約を、平成22年(2010年)までのできるだけ早い時期に 競争入札に移行させる」 「子会社・関係会社の組織・事業の再編・統廃合を実施する」  この閣議決定の履行がポイントである。JRAにファミリー企業との出資関 係について、たとえば以下のように事細かな質問をいくつも投げかけた。 「日本中央競馬会法等に定められたJRAの子会社・関連会社12社それぞれに ついて、各社が出資(出捐)する法人の一覧。とくに筆頭株主もしくは大株主 である会社についてはそれぞれその旨を記していただきたい」 「日本中央競馬会法等に定められたJRAの子会社・関連会社12社それぞれに ついて、各社が出資(出捐)する法人の一覧。とくに筆頭株主もしくは大株主 である会社についてはそれぞれその旨を記していただきたい」 【10月×日】 消された報告書――ファミリー企業の闇  1週間後、回答が返ってきた。データをもとに独自に作成した相関図を御覧 いただきたい。  http://www.inose.gr.jp/mailmaga/mailshousai/zuhyou/061109/002.htm

    かつて道路公団は高速道路という国民の財産を密かに私物化していた。直接 にオモテに存在が見えにくくなるように、道路公団はファミリー企業に出資せ ず、財団法人道路施設協会をつうじてつぎつぎとファミリー企業を設立してい った。JRAの回答は、ファミリー企業がなければ競馬が成り立たない、とで も言わんばかりである。 「JRAが設立された昭和29年以降、中央競馬事業は飛躍的な発展・拡大を遂 げてきたが、この間、JRAの経営の効率化の観点からアウトソーシング化を 進め、一般の会社では実施しがたい業務やJRAの生命線に係わる業務等を実 施させる子会社・関連会社を、JRAの“手足”として時代・時代のニーズに 沿って設立してきた」  JRAが直接出資していたのは日本トータリゼータなど4社だったが、道路 公団と共通のパターンとして財団法人日本中央競馬会弘済会をつうじて、さら に8社を実質的に支配し、私物化の構造をつくりあげてきたのだ。表向きは職 員の福利厚生団体であるように見せかけながら。  昨年末の「行政改革の重要方針」で、「子会社・関連会社の組織・事業の再 編・統廃合を実施する」と定められたことを受けてJRAはようやく、それま で弘済会(ないし関連財団法人・軽種馬育成調教センターや財団法人競馬国際 交流協会)が所有していた共栄商事、日本レーシングリース、中央競馬ピーア ールセンターの株式を取得し、12社を見えるかたちで傘下におさめた。子会 社・関連会社の再編をしやすくしたかたちである。  今後、この再編が正しく進むのか。徹底的なスリム化が必要である。随意契 約と天下りにむすばれたズブズブの関係は許されない。清掃にしても、警備業 務にしても、ファミリー企業に委託する必然性はない。競争入札を厳密に導入 し、民間による新規参入の波に洗われなければ、非効率がつづいてしまう。  民間企業でできない業務があるならば、JRA本体から余剰を垂れ流すよう な高コスト契約をつづけるべきではない。一刻も早い再編策が求められている。  JRAからの回答は以下のように曖昧に締めくくられている。 「競馬会としては、この様にして、子会社等の経営の安定化を図りつつ、効率 的・効果的にこれらを活用することによって、競馬会の経営の効率化やファン サービスの一層の拡充に努めていく」 *  ファミリー企業との契約の非効率を、昨年9月につくられた会計検査院の文 書が具体的に指摘していた。詳細はここでは割愛するが(「ニュースの考古 学」で既報)、その2カ月後の11月8日に小泉首相(当時)に提出された「決 算検査報告」からはその部分がすっぽり抜け落ちている。  会計検査院からは03年、JRAに元事務総長官房審議官が「顧問」として天 下りしている。無関係なのか。 ※ 猪瀬直樹の特殊法人改革の監視活動はつづきます。「週刊文春」連載コラ   ムとあわせてお読みください。 【猪瀬直樹の「ニュースの考古学」 これまでのJRA追及シリーズ】 「JRAにみる永田町・霞が関・虎ノ門のトライアングル」(10月12日号) 「“ドンブリ勘定”JRAに撃墜された会計検査院マル秘報告書」(19日号) 「JRAトンネル法人と三千億円もの内部留保」(26日号) 「安倍内閣に問われる行政改革の必要性――JRAの場合」(11月2日号) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■猪瀬直樹のスケジュール ・本日放送! TBSラジオ『あべこうじのポッドキャスト番長』(19:00〜)  木曜日のレギュラーコーナー「ニュースの見張番」(19:30すぎごろ〜)に  出演中。  法人税減税? 経済成長はどうなるの? きょうのテーマは話題の新・政府  税調の行方。税調委員メンバー猪瀬直樹が語ります。   ・現在発売中の『現代用語の基礎知識 2007』 ご一読を!  年功序列賃金はどうしてできた? 日本列島改造論って何だっけ……。いま  さらきけない現代史のキイワード、『現代用語――』のバックナンバーから  当時の“最新ワード”を読み解いてみせる好評シリーズ「現代の“歴史”」。  猪瀬独特の分析眼は必読です。 ・“道路族”は生きている? 11月6日発売の最新版『日本の論点 2007』に  猪瀬の新版道路論! 「日本橋に青空を」という“首都高移設論議”をなで  斬りに。道路改革のいま、が見えてくる。 ・テレビ朝日『ワイド! スクランブル』(11:25〜)  猪瀬は木曜日にレギュラー出演中。次回の出演は11月16日(木)。 ・猪瀬直樹が編集長を務める朝日ニュースター  『月刊ニュースの深層 ラストニュース』(毎月第四土曜日 22:05〜)  次回の放送は11月25日(土)です〈再放送あり〉。  詳しくはこちら。 http://asahi-newstar.com/  ━━━━◇「日本の近代 猪瀬直樹著作集」全国書店で絶賛発売中◇━━━━     文学、歴史、ジャーナリズムを志す人びとへ…必携の著作集          全12巻/各巻予価1300円/小学館刊         http://www.inose.gr.jp/list/index.html ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ バックナンバーはこちら。 http://www.inose.gr.jp/mailmaga/index.html ご意見・ご感想はメールでどうぞ。 info@inose.gr.jp 配信解除の方はこちら。 http://www.inose.gr.jp/mailmaga/index.html まぐまぐの配信解除は  http://www.mag2.com/m/0000064584.html 猪瀬直樹の公式ホームページはこちら。 http://www.inose.gr.jp/ ○発行 猪瀬直樹事務所 ○編集 猪瀬直樹 ○Copyright (C) 猪瀬直樹事務所 2001-2006 ○リンクは自由におはりください。ただしこのページは一定期間を過ぎると削  除されることをあらかじめご了解ください。記事、発言等の転載については  事務局までご連絡くださいますよう、お願いします。