第346号【特別】(6月9日)「経済観測第18回:復活する自律回復のメカニズム」(飯塚尚己)

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                  2005年06月09日発行 第0346号 特別
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「経済観測第18回 ? 復活する自律回復のメカニズム」

             第一生命経済研究所主席エコノミスト 飯塚尚己

●2005年1?3月期GDP公表後の経済予測は実態として下方改定

 前回の連載(5月12日)で、2005年1?3月期のGDP成長率は年率2%を
超えるそれなりの高成長が期待されるとの予想を紹介した。実際の結果は、予
想を大きく上回る年率+5.3%という非常に高い成長率であった。2004年4
?6月期から10?12月期にかけてほぼゼロ成長が続いていたことに鑑みれば、
成長率は明確にリバウンドしたとみてよいであろう。
 
 もっとも、こうした高成長を受けた後も、エコノミストの経済予測は必ずし
も好転してはいない。GDP統計公表後の経済予測をみると、このところの輸
出低迷や在庫調整の遅れを受けて、景気回復のタイミングが後ずれするとみる
調査機関が多い。政府・日銀と同じく年央(7?9月期まで)には景気が踊り
場を脱するとみる機関は、主要調査機関32社のうち14社と半数を下回る。また、
このうちの4社は2006年度には景気が再び調整局面を迎えると予想している。

 また、景気は足もとから調整色を強め、2005年度いっぱい景気停滞が続くと
みる機関も5社ある。足もとから順調な景気回復が続くとみる機関は8社と全
体の四分の一に過ぎない。調査機関32社の実質成長率の予測(中央値)は、20
05年度が+1.5%、2006年度が+1.8%である。表面的には2月予測に比
べて上方改定となっているが、これはあくまで1?3月期の成長率が高かった
ことによるテクニカルな上方改定である。景気シナリオという意味では下方改
定というのが実態といってよいであろう。

●一方で、深刻な景気後退もまた予想されていない

 以上のように、エコノミストの景気に対する見通しは全体としてみれば未だ
慎重である。ただし、一方で日本経済が先行き深刻な景気後退に陥るという予
測がほとんどみられないことも事実である。主要調査機関32社のうち、2005・
2006年度の実質経済成長率をマイナスと予測する機関は一つもない。2005年度
から2006年度を通じて、実質成長率が潜在成長率(1%半ば)を下回って推移
するとみる機関も少数派である。少なくとも、90年代後半のようなマイナス成
長が常態化した世界に逆戻りすることはないというのが、一つの共通した見方
になっている。

 このように日本経済の先行きに対して過度に悲観的な見方が少なくなってい
るのは、日本経済の不況抵抗力が高まっているという認識が広がってきたため
である。景気の循環的な回復力が弱まっても、経済の構造的な改善が進んでい
るため、成長率が大きく低下することはないという見方である。大筋でいえば、
こうした見方に賛成である。個人的に最も重要と考えているのは「構造改善」
は、この自律回復メカニズムの復活である。

●復活する自律回復のメカニズム

 戦後の日本経済の景気回復パターンをみると、輸出などの外生需要の増加が
景気回復のきっかけとなり、それが設備投資や個人消費などの民間需要の拡大
につながって、景気回復が本格化するというケースが多かった。輸出増加は、
生産・収益の拡大を通じて設備投資の増加を促す。生産・収益の回復は、また
賃金・雇用の増加を通じて個人消費の増加にもつながる。設備投資や個人消費
の増加は生産・収益の更なる増加をもたらす。通常の経済状態であれば、こう
して景気は民間需要を主体とした自律回復の過程に入ることになる。

 1990年代後半以降の日本経済がマイナス成長の世界から抜け出すことが出来
なかったのは、こうした自律回復のメカニズムが機能不全に陥っていたためだ。
先行きのマイナス成長やデフレ持続が予想されるなかでは、輸出や公共投資が
一時的に増加したとしても、企業は設備投資や雇用拡大になかなか踏み切るこ
とはできない。企業にとっては、外生需要の増加によって生じた収益を、過剰
債務・過剰雇用・過剰設備の削減に向けたほうがむしろ合理的となる。このた
め、海外経済の回復や景気対策により外生需要が一時的に増加しても、民間需
要を主体とした持続的な経済成長になかなか結びつかなかったわけである。

 足もとでは、こうした状況に明らかな変化が生じている。最近の経済指標を
みると、鉱工業生産・在庫指数や景気動向指数などの景気循環に関連する指標
に弱い動きが目立つ一方、個人消費や設備投資などの内需関連の指標には総じ
て底堅い動きが確認される(注)。輸出減少により景気が循環的に弱まるなか
でも、企業の設備投資や雇用増加に対する意欲は衰えていない。日本経済で長
年停止してきた景気の自律回復メカニズムが足もとで復活しつつあることが背
景にあると考えている。

具体的には、これまでの景気回復やデフレ緩和により企業の将来収益に対す
る予想が持ち直してきていること、景気回復とリストラの結果として企業が抱
えてきた過剰供給力が解消されつつあることだ。民間需要が堅調さを維持して
いるのは、これまで機能しなかった自律回復のメカニズムがようやくつながり
始めたことを示唆していると考えられる。

 企業の設備投資や雇用拡大に対するスタンスは、先行きの成長期待やデフレ
脱却期待が高まれば一段と強まることになる。マクロ政策運営としては、金融
緩和の継続や投資減税の拡充などデフレ終息に向けた「最後の一手」が重要で
あると考える。

(注)直近の経済指標の注目点について、個人的な見解を週次レポートにまと
めています( Economic Indicators「日本経済ウィークリー」)。第一生命経
済研究所ホームページ
( http://group.dai-ichi-life.co.jp/cgi-bin/dlri/top.cgi )に掲載し
ておりますので、ご高覧戴けましたら幸いです。

■著者略歴■
飯塚尚己(いいづか・なおき) 第一生命経済研究所主席エコノミスト。みず
ほ総合研究所等を経て、2004年7月より現職。日本経済のマクロ分析、景気判
断・経済予測を担当。

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【テレビ出演】

・レギュラー出演のフジ系『ワッツ!? ニッポン』(毎週土 10:00?)に
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