プロフィール

8月 『日本凡人伝 死を見つめる仕事』新潮社(※初出「BOX」84年4月?85年4月号、91年新潮文庫)
10月 『ミカドの肖像』でジャポニズム学会特別賞受賞
11月 山口昌男との対論集『ミカドと世紀末』平凡社(98年新潮文庫)
1988(昭和63)年11月 『ノンフィクション宣言』文藝春秋(※初出「翻訳の世界」87年4月?88年8月号、92年文春文庫)
12月 『土地の神話』小学館(※初出「週刊ポスト」88年1月15日?10月7日号、92年小学館ライブラリー、93年新潮文庫)
1989(昭和64)年1月7日 昭和天皇崩御。平成元年となる。
天皇崩御の12日前、1988年12月26日に母が亡くなった。

 歩いては、また、立ち止まる。背を丸めて、老人のように歩いてみる。つぎに若い男のように尖って歩く。それから探偵になり、怪しいやつがいないか、と物陰をうかがうのである。

 木々が黒い影を曳いているあたりからカラスが舞い上がると、僕はとたんに哲学者に変身している。なにしろ周りでは死者たちが、風のそよぎに紛れてささやいているからだ。ビルに囲まれた円い空から一条の光が透明な棒のようにまっすぐに射しこむとき、たしかに聴いた。

 耳を澄ませば、空気を揺るがす低い振動でしかない。風がビルにぶつかる音、高速道路を走る車のエンジン音、レールの継ぎ目で軋みを立てる地下鉄の音、それから墓地を覆う葉叢(はむら)の擦れ合う音……。

 さて胸に光と音を吸い込んだら、仕事場に戻らなければいけない。

「青山墓地を散歩して」(93・3)『僕の青春放浪』所収

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