第713号【特別】(8月30日) 「1945年8月30日、マッカーサーが降り立った日」

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2012年08月30日発行 第0713号 特別
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■■■    日本国の研究           
■■■    不安との訣別/再生のカルテ
■■■                       編集長 猪瀬直樹
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■□■ 『東京からはじめよう』(MXテレビ) ■□■

9月1日(土)21:00?21:55(毎月第1土曜日)
ゲスト:玉木 正之氏(スポーツジャーナリスト)

ロンドン五輪を視察し、2020東京五輪への思いを強くした猪瀬。スポーツジ
ャーナリストの玉木氏をゲストに迎え、スポーツが持つ力、招致に向けての活
動などについてトークします。

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□■『東條英機 処刑の日 』■□
〔アメリカが天皇明仁に刻んだ「死の暗号」〕
(文春文庫 税込630円)     

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猪瀬直樹氏は、
子爵夫人の日記に残された謎を解き明かしながら、
アメリカが日本に仕掛けた
対日占領政策の大きな構図を浮かび上がらせていく。
それによって、現代の日本と占領期の日本との間に漂う
霧のような薄闇を払っていくのである。

梯久美子(「解説」より)

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67年前のきょう1945年8月30日、連合国軍最高司令官マッカーサーは厚木の
飛行場に降り立ち、そこからアメリカ製のリンカーンで現在も営業を続けてい
る横浜のホテル・ニューグランドに入りました。

当時の日本は統治機構を失った無法地帯です。いまのイラクやアフガニスタ
ンと同じように何年もゲリラ戦が続くかもしれないという懸念を抱きながら、
しかし、マッカーサーはたった1200人の一行でやってきました。

『東條英機 処刑の日』(文春文庫)で猪瀬は、来日したマッカーサーの様子
をつぶさに描写しています。マッカーサーの目に敗戦まもない日本はどう映っ
たのか、マッカーサーから発せられた最初の指示はなんだったのか。

67年前に思いを馳せながら、お読みください。

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「1945年8月30日、マッカーサーが降り立った日」

マッカーサーが連合国軍最高司令官として厚木の飛行場に降り立つのは先遣
隊が準備体制を敷いてから二日後、8月30日午後2時過ぎだった。

厚木の上空に近づいたときマッカーサー元帥は下界を見下ろした。C54型機
は、鎌倉の大仏のうえを越え、整った円錐形の富士山の上空を旋回して厚木
へ向きを変えた。隣の席に坐っていた腹心のコートニー・ホイットニー准将は、
一瞬、凍りついた。

「われわれはほとんど木立すれすれの高度で飛行場を旋回した。飛行場と、平
坦な関東平野のひろがりを見渡したとき、多数の高射砲陣地が眼についた。こ
の距離では、高射砲が外れることはありえない。貪欲な戦場の怪物、死は無数
の戦場でマッカーサーを見逃したあげく、結局おしまいに彼を殺してしまうの
だろうか。わたしは息をのんだ」

飛行場はところどころに空爆によって生じた穴があいていた。わずか半月足
らず前、若い命を無残に散らすためのカミカゼ特攻隊が飛行訓練をしていたと
ころである。多数の高射砲陣地のなかのたった一つ、たった一人の兵士が、も
し高射砲に砲弾を込めて発射したら……。

敵地に着陸したのである。だからこそ、マッカーサー連合国軍最高司令官は
平静を装ってタラップを降りた。コ?ンパイプを口にくわえて。タラップの途
中で立ち止まり、余裕を示すように左右を見渡した。空は青く、千切れ雲がや
わらかい綿毛のようにふわふわと浮かんでいる。コンクリートの滑走路にかげ
ろうが揺らめき立ちのぼっていた。

評伝に書かれている通りなら、「200人近い報道陣、カメラマン──大半
は日本人だった──が飛行機に駆け寄った。扉が開くと、空挺隊のバンドが威
勢よくマーチを演奏した。マッカーサーは二歩タラップを降り、コーンパイプ
を二度ふかし、パイプと軍帽に格好をつけてカメラマンのために芝居がかった
ポーズをとった」ということになる。

ホイットニー准将は、これから先、どこへ向かうのか、まだ不安にかられて
いた。

「うしろの方には、見たこともないおんぼろ車両が並んでいた。それが横浜ま
での道のため日本側がかり集めた最善の輸送機関だった。マッカーサーは何年
製のものかも定かでないアメリカ製のリンカーンに乗り込み、他の将校たちも
がたがたの自動車の列におさまった」

マッカーサーは、すぐに首都を目指したわけではない。事前に日本側につた
えられた指示では総司令部は横浜とされていた。政府は各省と協議して「横浜
で敵を食い止め、帝都には一兵たりとも入れぬ」、つまり多摩川を越えさせな
いという方向で、神奈川県庁へ通達を出している。

総司令部は横浜税関に置かれた。日本側の画策は功を奏したかのように見え
た。マッカーサーは厚木から横浜のホテル・ニューグランドへと向かった。

旧式の赤い消防車はサイレンを鳴らしっぱなしで、そのうしろにマッカーサ
ー一行の車列がつづいた。マッカーサーにはおんぼろのリンカーンがあてがわ
れた。それでも車列のなかでは群を抜いていた。あとは木炭車ばかりで、スピ
ードが出ないだけでなくしばしばエンジンの調子が悪くて止まってしまう。厚
木から横浜まで2時間もかかるとは予想もしなかった。

おんぼろリンカーンに同乗したのは、マッカーサーのつぎに階級が高いアイ
ケルバーガー中将である。彼はふとマッカーサーが拳銃をもっていることに気
づいた。戦場の前線でも丸腰なのに、初めて見た。アイケルバーガー中将自身
も、乗車する前に空挺部隊の兵士から手榴弾を一発もらって握っていた。

横浜までの道路には、両側に銃剣を携えた完全武装の日本軍兵士がうしろ向
きで立っている。並木の代わりのように兵士がいる。マッカーサーに背を向け
ているのは、天皇を護衛するときとまったく同じやり方だった。兵力は二個師
団、3万人の兵士だった。

マッカーサーの一行は1200人にすぎない。うしろ向きの完全武装の兵士は護
衛には見えなかった。ひとりでも振り返り、銃口を向けたら……。手強そうな
兵士に警戒心をゆるめることができなかった。

横浜は徹底的に破壊されていた。ルメイ将軍の考えた焼夷弾は東京だけでな
くここでも効果を発揮しすぎて、幽霊の街、人影のないからっぽの街になり、
占領軍の宿舎の確保もままならない。ショーウィンドーは板張りにされ、歩道
は荒れ果てていた。

ホテルは山下公園の前にある。マッカーサーはかつて、昭和12年に新婚のジ
ーン夫人を伴ってこのホテルに泊まったことがあり、どんなところか知ってい
たのである。一帯は廃墟だが四階建てのホテルは以前と変わらぬ佇まいで残っ
ていた。日本側が用意した速度の遅いリンカーンは炎天下を30キロも走ってき
た。早く懐かしいホテルで休養をとりたいと思っていた。

ホテル・ニューグランドの一帯はたちまち通行禁止とされた。玄関に着くと
燕尾服に縞のズボン姿の老人が深々とお辞儀をした。マッカーサーは「おまえ
はこのホテルの支配人をどのくらいつとめておるのか」と訊ねた。75歳の野村
洋三は「わたしは支配人ではなくオーナーです」と答え、幾度もお辞儀をくり
返し、「ご案内する部屋がお気に召すとよろしいのですが」と小走りに廊下を
先導した。案内されたスイートは最高級のはずだが思ったより天井が低かった。

部屋に入ったマッカーサーは、横になった。廊下に百人余りの将官が部屋の
割り当てを求めて大声で右往左往している。とても眠れない。銀杏並木の枝ご
しに横浜港を一瞥すると、ルームサービスのベルを鳴らした。3人のメイドが
蝶のように舞い込んできて、あとから野村が現れた。食事をしたい、とマッカ
ーサーは告げた。

ホイットニー准将は、マッカーサーの部屋の前で立ち止まった。昂ぶった声
が聞こえ、ドア越しに耳を傾けた。対敵情報部長を呼びつけ、命じている。

「東條をただちに逮捕しろ。逮捕して監禁せよ」

食堂へ向かった。メニューは、スケソウダラとニンジン、タマネギ、馬鈴薯
の野菜類に冷凍クジラをステーキ風にしたものだった。野村はせいいっぱい歓
待したつもりだが、マッカーサーはひと口食べるとフォークをおいた。

こうして厚木の飛行場から横浜へ、スムーズに事態は進むが、『現代ヨーロ
ッパの内幕』や『アジアの内幕』などの著作で知られるジョン・ガンサーは、
当時、アメリカの軍事専門家や日本研究者たちが「マッカーサーが恐るべき危
険を犯していると考えた」と、1951年(昭和26年)の著書『マッカーサーの謎』
のなかで述べている。

「何年もゲリラ戦は続くだろう。アメリカの統治者は四六時中、厳重な護衛が
なければその身辺の安全を期し得ないだろう。日本人はレジスタンス戦法に出
て、それと同時に最も残虐な組織的匪賊行為をあえてするだろう。日本全土は、
アメリカの征服者に対する永遠の憎悪の炎に燃え上がるだろう」

こんな心配が本気で語られていた。だから、「マッカーサーが、ごくわずか
のアメリカの空輸部隊の到着を待たずに、東京湾のミズーリ艦上で、日本の降
伏を受け入れると決定したことに対しては、近代史上最大のばくちとさえいわ
れた」のである。

しかしマッカーサーはゆうゆうとホテル・ニューグランドに三晩泊まり、戦
艦ミズーリでの9月2日の調印式に臨んだ。


『東條英機 処刑の日』(文春文庫)より



「日本国の研究」事務局 info@inose.gr.jp


猪瀬直樹の新着情報━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■出演情報

・8月31日(金)17:30ごろ? フジテレビ『スーパーニュース』に出演しま
す。副知事室からの生中継です。テーマは2020東京五輪招致について。

・9月1日(土)12:00?13:30 日本テレビ『メレンゲの気持ち』のコーナ
ー「ビューティフルライフ」に登場します。猪瀬の貴重なプライベートライ
フが垣間見えます。

・9月1日(土)21:00?21:55 MXテレビ9CH『東京からはじめよう』に
出演します。ゲストは、玉木 正之氏(スポーツジャーナリスト)です。

・9月3日(月)22:00?22:54 テレビ東京『未来世紀ジパング』にコメン
ト出演します。テーマは「世界一きれいな水をつくる」。世界一の技術を有
する東京水道の水ビジネスについて。

■掲載情報

・8月26日発行『一個人』10月号に、連載エッセイ「解決する力」の第13回が
掲載されました。テーマは「自然再生エネルギーの課題と原発ゴミ問題」。

・8月28日発売『週刊朝日』9月7日号に「第2名神の凍結解除 我々の構造
改革を学習せよ」が掲載されました。

・8月29日発売『SAPIO』9月19日号に領土問題についてのインタビューが掲載
されました。

・9月5日発行『潮』10月号、連載対談「日本を変える次世代の騎手たち」
第5回に速水浩平氏との対談が掲載されます。

・8月18日発売『新潮45』に領土問題についてのインタビュー「もう国には任
せられない」(聞き手・カメラマン山本皓一)が掲載されました。

・日経BPネットの好評連載「猪瀬直樹の『眼からウロコ』」最新号。
「現場を知らずにエネルギー問題は語れない 北海道の風力、太陽光発電と
放射性廃棄物研究施設を視察」はこちら。
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20120730/318000/

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でもある。曲がりくねった鏡張りの回廊を歩くときに歪んだ自分の姿が無数に
映るばかりで天皇の影は見当たらない」(「あとがき」より)

巻末には作家・批評家の東浩紀氏との特別対談「今、ここにある皇室の危機」
が収録されました。

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「東京都副知事で作家の言葉論。ツイッターで文章力を鍛えるには口語体では
なく文章語で書くことだと説く。読書は『10ページ読書』を勧める。それだけ
で頭の中に検索のキーワードができ上がると言う。また、小泉純一郎は<俳句
のように凝縮した1行の力強さがある>が、菅直人は<ページに言葉が埋まっ
ているだけ>といった分析等も興味深い」(読売新聞 8月14日付)

作家として、東京都副知事として進める「言語力再生」。
サッカー界にも導入された「言語技術」やツイッターやフェイスブックなど
のソーシャル・ネットワークのほか、三島や太宰の文体にいたるまで、グロー
バル時代に不可欠なコミュニケーション力の目的・手段を独自の視点で解説。

第一部 「言語技術とは何か」
第二部 「霞が関文学、永田町文学を解体せよ」
第三部 「未来型読書論」

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さまざまな世間の“壁”を突き破ってきた著者が、
自らの体験を踏まえて綴る、人生を面白くする
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